NHKの名アナウンサーで、数々の歴史的試合の実況を担当してきた山本浩さんが、今までに実況してきた試合を様々な名台詞とともに振り返った本。実況席のサッカー論に引き続き、読んでみました。
新潮社 (2007/08)
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本書は年代に沿って書かれていますが、一番最初の(つまり一番古い)ゲームは、1985年のW杯メキシコ大会の予選。
東京・千駄ヶ谷の国立競技場の曇り空の向こうに、メキシコの青い空が近づいているような気がします。
その時の日本代表のメンバーは、松木安太郎、加藤久、都並敏史、木村和司、与那城ジョージ、水沼貴史、原博実などといった顔ぶれ。これだけでも、山本さんのサッカー中継の歴史と日本サッカーの歴史がともに重ねてきた時間を感じます。
この本がすごく面白いのは、著者があくまで実況のプロとして、サッカーを「実況の対象」として捉えているところです。しゃべりの抑揚や声音の行程、長い文章と短い言葉の使い分け。解説者の話を上手く引き出したり、時には解説者の喋りすぎをコントロールしたり。著者はゲームの流れを見ながら、そして時にはゲームの流れを予想しながら、言葉のリズムを試合のリズムに合わせていきます。選手や戦術など「サッカーそのもの」にできるだけ近づこうとする一般のスポーツ記者の視点と、あくまで「サッカーの実況」のプロである筆者の視点は大きく異なります。しかし、だからこそ見えるサッカーの姿というものが間違いなくあり、それは確かにサッカーの本質を体現しています。アナウンサーが試合開始15分ぐらいになると解説者に「今のところ、今日のゲームの流れはどうなっていますか?」と聞くのは、サッカーでは試合開始15分のくらいでゲームが落ち着いてだいたいの流れが見えてくる、逆に言えば15分まではお互いの探り合いながらペースを探るような展開になることが多いということです。
そしてさらに面白いのは、そうしてあくまで実況のプロに徹しながらも、誰よりも長く近くから日本サッカーを観てきた著者のこと、誰よりも熱狂的なサッカーへの想いが、ときに実況にあふれ出すところです。初めてW杯出場を決めたジョホールバルのゲームの所なんかは、読んでいて胸が熱くなりました。
サッカーの歴史を振り返るとともに、サッカーへの理解とサッカー「中継」への理解が深まる、とても面白い本です。
