村上春樹にご用心

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内田樹の村上春樹論。書き下ろしではなく、今までに雑誌やブログ(内田樹の研究室)に発表した文章から、村上春樹に関連した文章をまとめたもの。

村上春樹にご用心
村上春樹にご用心
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内田 樹
アルテスパブリッシング (2007/09/29)
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おすすめ度の平均: 4.0
5 非常に噛み砕いたやさしい言葉で書かれているので読みやすかった
5 村上春樹を読んだことがない人も、なんとなく本棚にある人も。
5 本はカラダで読め。

個人的に内田さんの文章は好きだし、基本的に彼は村上ファン(というか信者)なので、気楽に読めます。特に「村上春樹について徹底的に分析した」というような本ではなく、村上春樹についての雑談(または村上春樹という言葉がたまたま出てきた雑談)を集めてきた、というようなノリの本です。なので、文学批評とか文学論みたいなのを期待すると、ちょっと違うかもしれません。

でも、所々に見られる鋭い視点は、さすがだなという感じです。

特に興味深かったのは、「父の不在」という文章。著者は、村上春樹の作品が世界的な存在になった理由を、「父の不在」であると論じています。

ほとんどの彼の作品には、「父」が出てきません。これは村上さん自身が(海外のインタビューで告白しているように)父親との関係を上手く築けなかったことと無関係ではないでしょうが、著者がここでいう「父」は父親そのもののことだけではなく、社会を規定し保障する大きな存在すべてを意味するものです。たとえば、「資本主義経済体制」や「革命的前衛党」など(と、著者は言っています)。

村上春樹は(フランツ・カフカと同じく)、この地図もなく、自分の位置を知る手がかりが何もない場所に放置された「私」が、それでも当面の目的地を発見して歩き始め、偶然に拾い上げた道具を苦労して使い回しながら、出会った人々から現在の自分の位置と役割について最大限の情報と最大限の支援を引き出すプロセスを描く。その歩みは物語の最後までたどりついても、足跡を残したごく狭いエリアについての「手描き地図」のようなものを作り上げるだけで終わる。 それはささやかだけれど、大切な仕事だと私は思う。

村上春樹の小説についての、ものすごく的確な表現だと思います。

ところで、この本は著者が新聞から「村上春樹がノーベル賞を取った場合のために事前に依頼されていた」祝辞から始まります。もちろん、この祝辞が実際に新聞に載ることはなかったわけですが。なかなか面白い趣向です。

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