村上春樹の新作エッセイ。テーマは走ること。村上さんのマラソン好きはとても有名で、今までもエッセイの中で走ることについての話題は多くあったのですが、この本ではそれがメインテーマとなっています。
文藝春秋 (2007/10/12)
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同じ時代に 走ってくれている ありがたさ
書くことと走ることの同時性
Lovin' Spoonfulが聴きたくなるとは言っても、単にジョギングマニアが自分のジョギング生活について語った本というわけでは決して無く、村上さんの生活の中で大きな時間を占め、大きな意味を持つ「走ること」を通じて、彼自身の作家としての、そして人間としての有り様をあぶり出す、というのがこの本です。それは、『走ることについて語りつつ、小説家としてのありよう、創作の秘密、そして「僕という人間について正直に」、初めて正面から、綴った画期的書下ろし作品です。』というコピーの通り。
そして、彼が「走ること」を通して自分について語っている多くのことのうち、特に印象的だったのは「老い」について彼がしばしば言及していることです。
村上さんのエッセイ(小説ではなく)を読んでいると、軽快でユーモア混じりの文体は彼が30代の頃から変わらないのでなんとなく忘れてしまいがちなのですが、1949年生まれの村上さんは、もう50代後半です。マラソンも、以前より熱心にトレーニングして、以前より丁寧に準備をしても、以前よりも少しずつタイムが落ちてきているのが現状なのだとか。でも、村上さんはそうした「老い」をとても静かに受け入れているようです。
かつて20代から30代の頃の村上さんは、そして当時の村上さんの小説の主人公たちは、彼らが10代だったころの60年代にあってすでに失われてしまった「何か」について、度々口にしていました。陳腐な言葉で言うと、「大人になる」というステージです。彼らの気持ちは、高校生の僕にはあまり理解できませんでしたが、今はよく分かります。
そして今、村上さんは「老い」の領域に少しずつ近づいていっています。村上さんが「老人」になるというのはあまり想像がつかないし、最近は60代くらいでは「老人」と呼ぶのもはばかられる位元気な人がほとんどですが、それでもそれは少しずつ村上さんに近づきつつあるわけで…。その時に彼がどんな小説を書くのか、とても楽しみですが、正直言うと「がっかりさせられてしまうんじゃないか」という怖さもありますが。
海外のインタビューでは、石原慎太郎をはじめとする日本の右傾化について危惧を持っていて、今後の作品の中にそうしたメッセージを盛り込んでいく、なんて言う話もしていました。ファンなら誰でも色々と想いはあるでしょうが、何にせよもう鼠や羊男を書いていた頃の村上さんでは無いのですよね。いずれにせよ、早く次の小説が読みたい!!です。
本全体から、彼のストイックな人柄がひしひしと伝わってきます。ファンは必読。

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