村上春樹は回転木馬のデッド・ヒートという本の中で、小説の「面白味」についてこんな風に語っています。
面白味というものは蛇口をひねってコップに注ぎ、はいどうぞとさしだせるような種類のものではないのだ。あるときにはそれは雨乞いの踊りをさえ必要とする。
これは芸術家である村上さんの、面白味を提供する側の人としての言葉ですが、同じことは受け手の側にも言えると思います。つまり、ある種の感動は、コップに注いでもらってはいどうぞと提供してもらえるものではない、と。音楽、絵画、建築、文学、どれも本当の感動を得るためには、受け手の側に知識や経験や才能や努力が必要です。
「科学」が与えてくれる感動も、そのひとつだといえます。人間が何かをなすための学問である工学(Engineering)に対し、科学(Science)を神様が生み出した世界のありようを記述するものだとすれば、科学が美しく、感動を与えてくれるものだというのも当然のことです。ただ問題は、それを理解することができるのは、一部の限られた人たちだけであるこということ。
博士の愛した数式の「博士」はオイラー式「e^iπ=-1」を深く愛したわけですが、これは数学の知識を持たない人にとっては理解のできないことだと思います。この小説の中では、主人公の家政婦さんは博士への愛情を通して、オイラー式にも愛着をもつことになったわけで(でしたよね?記憶がおぼろげ…)、それはそれで素敵な話ですが。
この「生物と無生物のあいだ」という本は、小飼弾さんの書評を読んで買ってみたんですが、この本の素晴らしさは弾さんのこの言葉に尽きる気がします。
本来であれば科学者にしか味わえぬはずの感動を読者に味わわせる、少なくとも味わった気にさせられるだけでも、福岡伸一の筆がいかにすぐれたかの証拠だ。
講談社 (2007/05/18)
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生命の生命たる所以
名著の予感
世界観が変わるこの本では、生物学の基礎的な説明と、生物学の歩みと、著者自身の研究の歩みが、あっちこっちを行ったりきたりしながら話が進んでいきます。文章がとてもわかりやすいうえに面白くて、全く飽きることがありません。
僕はもともと高校理科で生物を取らなかったこともあって、生物学についての知識はほとんどゼロでした。アミノ酸とタンパク質の違いも、細菌とウイルスの違いも、この本を読むまで知りませんでした。
そんな僕でも、DNAとはなにか?たんぱく質とはなにか?DNAはなぜ二重らせんなのか?生物学とはどんな学問か?そして、生命とは何か?が、なんとなくですがわかったような気にさせてもらうことができました。
弾さんの言うとおり、本当に感謝です。
そして、「生命とは何か?」という問題については、僕の本棚にはもうひとつ大事な本が眠っています。
日本経済新聞社 (2002/09)
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新しい科学
プロトサイエンス(前科学)
さすがだこれはすごい本です。数年前に一通り読んで、すごい本だということは理解できたのですが、内容は半分も理解できませんでした(涙)。この本では、生命の本質を、分子生物学と熱力学を中心に、量子力学や哲学もからめて解き明かしていくという試みがなされています。哲学とかが出てきちゃうと、ちょっとアヤシゲな感じに聞こえてしまうかもしれませんが、これは本物です。以前読んだとき、読み初めてしばらくたったところで、「もしかしてこの本に書かれているのはとんでもなく重要なことなんじゃないか?」という思いをひしひしと感じたことを覚えています。
「生物と無生物のあいだ」の感動が覚めないうちに、こっちにも再挑戦してみようかな。


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