日経BYTE4月号で『生物指向コンピューティング』と『リカバリ指向コンピューティング』の特集がされていました。コンピュータ技術がますます難解になってくるにしたがって、こういうキャッチフレーズもますます氾濫するようになってきています。
こういうキャッチフレーズをつけるのはマーケティングな人たちの仕事なのでとやかく言うつもりは無いのですが、使う人にとっては、これらのキャッチフレーズの裏側にある実体をいかに見通すかが重要になってきます。ポイントは、『新規性』、『現実性』、そして『レベル感』です。
ここで『生物指向コンピューティング』と呼ばれているものは、ベンダーによって自律コンピューティングだったり、オートノミック・コンピューティングだったり、オーガニック・コンピューティングだったりするものです。つまり、実際の生物のように、特に誰かから指示されるわけではなくても、システム自身の判断で、障害を検知し、修復するという考え方です。こんなことが本当に実現したら、すばらしいですよね。
ただ、その中身をよく見るとわかるように、各ベンダーの出している生物指向(に類するもの)は、監視・クラスタリング・運用自動化など、既存の製品やソリューションの集合体であることがわかります。このように『新規性』についてしっかりした視点を持っていないと、何かすごい製品なんじゃないかと勘違いしたまま、無駄な投資を行ってしまう恐れがあります。また各ベンダーは生物指向コンピューティングの将来像として、たとえば複数のコンピュータが干渉し合って新しいプログラムを作るような、本当に生物的なコンピューティング像も紹介していたりしますが、こういう技術はまだ本当に基礎研究の段階のものがほとんどです。こういった、既存の技術と将来の夢との間に横たわる、大きな『現実性』のギャップを認識しないと、やはり重大な勘違いをしてしまうことになります。要するに、『生物指向コンピューティング』というキャッチフレーズは、ソフトウェア技術の名称ではなく、製品・ソリューションのマーケティングに関する用語であることを意識する必要があるということです。
一方『リカバリ指向コンピューティング』は、明確に製品設計の指針となるフレーズです。これは、障害自体を減らすのではなく、障害からの回復時間を可能な限り小さくすることによって、障害発生時の業務へのインパクトを極小化するということです。具体的には、ソフトウェアに障害が発生したときに、ソフトウェア全体ではなくソフトウェアのうち障害が発生した一部分のみを再起動する『マイクロリブート』を行うことにより、障害からの回復時間を短くするというものです。そして、そのために短時間(1秒以下)でのリブートが可能なように、ソフトウェアコンポーネントをモジュール化し、またマイクロリブート時のトランザクション整合性を保つためのUNDO機構を組み込むことが必要、と提言しています。繰り返しますが、このリカバリ指向コンピューティングは、明確なソフトウェア設計方針であり、現実の技術で実現が可能なものであるということです。多かれ少なかれ、この考え方は多くの大型ソフトウェア(特にOS)で適用されていくのではないでしょうか。
また別の記事で、Amazon Webサービステクニカルエバンジェリストの吉松氏による「Webサービス論」という文章もありました。一時期ほど話題に上らなくなってしまったWebサービスですが、吉松氏はその理由を、Webサービスにより実現されるプログラムレベルでの接続性が、あたかもビジネスアプリケーション(さらに飛躍してビジネスプロセス)がカンタンに繋がるかのような誤解を与えてしまった(一部は確信犯的にでしょうが)ことにあったのではないかと認識しています。これについては僕も同感です。製品パンフレットには「繋がります」と書いてあったとしても、それがプログラムの関数呼び出しのレベルなのか、データの中身まで考えてアプリケーションを接続してくれるのか(EAIツールみたいなものですね)、それとも本当に待ったく別のプログラムが魔法のように協調動作し始めるのか(今のところは本当に魔法でも無い限り無理なことです)、そこの『レベル感』を見極めることが大切になります。
要するに、『キャッチフレーズの後ろに隠れている技術要素をしっかり見極めようね』ということなのですが、問題になるのは、キャッチフレーズの対象セグメントであるユーザーのIT部門担当者にとっては、これらの技術要素は理解するには複雑すぎるということです。結果、ベンダーのセールストークに乗って、騙されたと言う思いもありながらも、どんどんそのベンダー囲い込まれていってしまう…、ということになってしまうのです。
今、大規模システム向けの技術はどんどん複雑になり、ひとりの理性的な人が全体を理解し、判断することができなくなってしまっています。だからこそ、ベンダーは見栄えのいいキャッチフレーズで囲い込みをしようと頑張っているのですが…。
複数ベンダーの技術を理解し、顧客の立場でアドバイスができるようなコンサルタントがいればいいんでしょうが、そんなスーパー技術者はなかなかいないですしね。大規模システム向けの技術市場は、今後ますます混沌としていくんじゃないかという気がします。
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